「わぁ、コンソメだ! 私これ好き」
「ロイ殿用に作ってくれました。効果があるならまた作るそうです」
わざわざ手間をかけて、作ってくれたのか。
スープは適度に冷めていた。火傷などしないが、冷め切ってもいない。それを吸い口に移したユリシーズに促され、私はロイの部屋へと移った。
意識のない彼を起き上がらせ、ユリシーズも手伝って唇に吸い口を当てる。ほんの少しでもと毎日このような食事をさせているが、それが心苦しく思えてきている。
「ロイ、今日の食事は特別だ。食べてみてくれ」
声をかけ、ほんの少しを口に含ませる。最近は上手く飲めなくてそのまま出てしまう事もある。だからゆっくりと、少しずつ。
素直に含んだロイの喉が、ゆっくりと上下した。飲んでくれた、それだけで私の心は救われる。ユリシーズとセナを見ると二人も表情を明るくした。
そうしてゆっくりと時間をかけて……彼は全てを飲み込んでくれた。
「どうなるでしょうか」
「分からない。セナ、すまないがもう一度浄化を掛けてもらえるだろうか」
「OK!」
軽い感じで了承してくれた彼女が手を握る。そして再び、あの金色の光が浮き上がった。
『ピュリフィケーション!』
浄化の光がロイの体を包んでいく。だが、いつもと様子が違う。いつもは撫でるように通り過ぎてしまうが、今は留まって体を包み入りこんでいくのだ。
「凄い! 入ってく!」
「え?」
「ちゃんと深くに届きそう。えっと……『ヒール!』」
立て続けに魔法を唱えた彼女の回復魔法が全身を包み、消えていく。これも駄目だろうかと思ったが、違った。
「……っ」
「ロイ?」
ほんの僅か唇が動いた。むずがるように、小さく。長い睫が震えるように揺れる。そして数日ぶりに、金の瞳を見た。
「ロイ!」
此方へとゆっくり目が動いて、確かに合った。そしてぎこちなく笑ってくれた。
この瞬間を、私はどれだけ夢見たのだろう。どうにか命を繋ぎ、苦しむ彼を生かそうと奮戦して……もう最近では生きて欲しいという私の願いは残酷なものなのではと思い始めていた。
だが、諦めなくてよかった。諦められなかったのだ。
弱く抱きしめて、体重をかけないようにして私は泣いていた。まだ声は聞けない。体も自由には動かない様子だ。でも、目があった。意識が戻った。それだけで私はこんなにも救われる。
「セナ、ユリシーズ。そしてトモマサ、ありがとう。本当に、ありがとう」
今この時、私はもう一度夢を見られる。再び二人で言葉を交わし、笑い合い、共にある未来を見られる。その希望が、今の私の全てなのだ。