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第32話

「時間がかかりすぎだ。それに⋯何か臭うぞ。」


味方とようやく合流した直後に、不快感がまじった口調でそう言われた。


チームで活動することが多いが、俺を毛嫌いする者は多かった。特に超能力を持たない者は必要最低限のこと以外、俺から距離を取ろうとする。


簡単な話だ。


俺の能力を知る者は、スマートフォンなどから個人情報を抜き取られるのではないかと戦々恐々としている。


本人や家族だけでなく、友人知人や恋人までの情報を取られたくないと警戒されるのだ。


もちろん、俺にはそのような悪癖はない。しかし、従事している職務と能力が俺を孤立化させているのは事実だった。


「すまない、回収してくれて助かった。」


排水口からの脱出は成功した。


あの後、トラック・ドック跡の扉から建物の管理会社が借りているブースへと入り、そこの更衣室で別の衣服を拝借して外に出たのだ。


あのまま残るふたりの能力者と戦うはめになった場合、待っているのは死か拘束のどちらかだろう。


ODS社の実態は不明だし、聞いたところで誰も教えてはくれないと思っている。


白昼の高層ビルでの大惨事が、メディアを通じてテロ事件と見なされるか、政府筋によってなかった事にされるのかはわからない。


だが、その結末がODS社のバックに潜む母体を洗い出すのかもしれなかった。


もしかすると、俺はその判断のために投入された捨て駒なのかもしれない。


まあ、生きて帰れるだけ、儲けものだと思うことにしよう。唯一、美味い飯を食いそびれたことだけが悔やまれる。


次に外に出た時には、霜降り肉かA5熟成牛でも食べてやろう。


そうでも思わなければやっていけなかった。




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